2019年06月07日
フォーカル・ジストニアに罹患したピアニストのリハビリを指導したという療法士の方とお話をする機会がありました。その中で、
「音楽家の方は、ウォームアップ、クールダウンをしない、悪い癖があるように思う」
という指摘があり、ハッとしました。そんなことは考えたこともありませんでしたので。
実際のところ、楽器を手にしてすぐは、速くも正確にも手指を動かせないので、アルペジオや音階をゆっくり弾くところから始めます。それがウォームアップということだろうと思いました。しかしクールダウンは、たぶんやったことがありません。難曲大曲も弾き切ったら「ああ疲れた」といって楽器を置くだけ。正しいクールダウンとはどんなことをしたらいいのでしょう。
もしやと思って、最近買った本を見てみました。
■成功する音楽家の新習慣
『成功する音楽家の新習慣』という本です。
この本は第I部から第III部まであって、第II部までしか読んでいなかったのですが、第III部・第12章の「故障予防の基本」という項に「ウォーミングアップとクールダウンをする」という一節がありました。
本書によれば、ウォームアップもクールダウンも、手指だけでなく全身の筋肉や関節をほぐすことが必要のようです。そうなると何もやったことがなかったということになりますが、そうですか、「基本」でしたか。
ところで、この第III部は「音楽家であり続けるために」と題されていて、故障の予防と対処に多くのページが割かれています。腱鞘炎や局所性ジストニアも取り上げられています。
体が発する注意信号に気をつけるべしという重要な指摘もあります。特に「痛みを伴わない違和感」に言及しているのが素晴らしい。また、日本語版の第III部を監修した古屋晋一さんの解説も掲載されています。
ちなみに第I部は「練習上手になるには」というテーマで、毎日の練習に際して心がけること、第II部は「恐れずに演奏する」として、人前でのパフォーマンスのためになすべきことが、それぞれ具体的に記述されています。
全体を通じて、ひとつの楽器に特化したものではなく、あくまでも例として、ピアノ、ギター、弦楽器、管楽器、声楽などが取り上げられています。M.ジュリアーニの楽譜も、音を省いて練習してみるというやり方の例で出てきます。
名著と思います。音楽家をめざす若者はもちろん、音楽家を目指さない人や若くない人でも、音楽と長く付き合いたいという人たちは必読です。