2002年に「静岡ギター事情」に書いた記事を再掲します。
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前回の研究レポート「シーガー V.S. プロアルテ」では、3倍、6倍の高調波成分のレベルが他の成分に比べて低いという発見がありました。今回は予告どおりその解明を行ないます。
で、いきなり結論を言ってしまいますが、3倍波、6倍波のレベル低下は弾弦の位置によることが確かめられました。さっそく図1a~cをご覧下さい。弾いた音は前回と同じく3弦12フレットを押さえたソの音です。
横軸は周波数。100スケールで約4300Hz。縦軸はスペクトル強度(対数目盛り)。以下同様です。
図1aは12フレットとブリッジを3等分する点(2ケ所あるうちのブリッジ寄りの方)を弾弦したものです。同様に図1bは弦長を4等分する点を、図1cは5等分する点を弾弦したものです。(ただし弾弦の位置は目分量で見当をつけたもので厳密ではありません。)これらを見ると、3等分点を弾弦すると3、6倍波が落ち込み、4等分点では4、8~9倍波、5等分点で5~6倍波付近がそれぞれ落ち込んでいることが分かります。
ここで弦の振動についての復習。
両端を固定された弦は図2のような、基本モード、2倍振動モード、3倍、4倍・・・の各モードが合成されたような振動をします。
ここで、たとえば3倍モードの節の位置つまり弦長の1/3に当たるところを弾弦したらどうなるでしょう。節になるはずの位置を強制的に振動させられるのですから、おそらくは3倍、6倍・・・の振動モードが発生しにくくなるものと想像されます。
とすると、ふたつある3等分点のうちブリッジ寄りではなくて指板寄りの方を弾いても図1aと同じ結果となるはずですよね。やってみましょう。
たしかに3倍波、6倍波が落ち込みました。
前回のレポートに「サウンドホールの縁のあたり」を弾弦したとありますが、実はこの位置が12フレットとブリッジを3等分する位置に当たっていたために3倍波、6倍波が落ち込んでいたのでした。
さて、話は変わって木管楽器について。フルートやクラリネットなどの木管楽器は管の中の空気の振動が管の長さに共鳴するわけですよね。図4みたいに。
ここで注目すべきことは、片端が閉じている管の場合、基本モードに対して2倍、4倍といった偶数倍の振動モードがないということです。ということは奇数倍の高調波しかない?ほんとでしょうか。確かめようにも我が家に木管楽器なんかないなあと思っていたのですが、子供のリコーダがあったのでその音を分析しました。発音はすべての穴をふさいだときの音、ドです。
たしかに偶数倍の高調波は低いレベルですね。
ということはですよ、前半の結論から察するに、弦を2等分する点を弾弦すれば偶数倍の高調波が抑圧されて、ギターで木管楽器のような音が出る??? さっそく試してみましょう。
おお、やった、やりました。みごとに偶数倍音が落ち込みました。ぱちぱちぱち。
ギターで木管楽器をイメージした音を出したいとき、なんとなくスル・タスト(指板寄りを弾く)していたのは、弦長の中央部分を弾いて奇数倍音だけを出したかったからなんですね。
だけど決定的に違うのは音の持続時間。こればかりはどうしようもないし、そこがギターのいいところ。
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今回はここまでです。なんだか教科書のような押し付けがましい文章になってしまいました。
次回はなるべく予想のつかないことをやってみたいと思います。
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分析諸元
楽器 ギター:1973年製 国産中級品 松/ローズ 弦長650mm
リコーダ:ヤマハ ソプラノリコーダ YRS-301 II
弦 シーガーエース20号
発音 ギターは、m指でやや深めのタッチからアポヤンド。
リコーダは普通に吹いただけ。
録音 ギターはサウンドホール正面約50cmの位置にマイク。MDに録音の後、Macに取り込み。
リコーダは、先端から約50cmの位置にマイク。Macに直接取り込み。
サンプリング周波数は44.1KHz。
ファンの音などノイズあり、環境劣悪。
そのうえ入力データはソフトの都合で8ビット(とほほ)。
分析 高速フーリエ変換(FFT)
分析次数 1024
窓関数 ハニング窓
Special Thanks to Hanapy.
16 Sep. 2002
06 Dec. 2021 改訂