糸巻交換

10弦ギターの糸巻を交換しました。

多くの皆様に呆れられるようなことをやっていますが、作業自体が楽しく、結果も良好だったので、満足しています。

このギター(ホセ・ラミレス 1979年)は、もともとフォーカルジストニアのリハビリのためのヒントが得られないだろうかということを期待して、格安だった店頭価格をさらに値切って買ったもので、それゆえプレイヤビリティは大して期待していなかったのですが、さすがはラミレス、腐ってもラミレス、音はいいし、目立った傷もないし、サドルは限界まで低いけどおかげで弾きやすいし、ということで、いい買い物をしたと思っています。

ただ、唯一の不満が糸巻。ガタついたり、硬いところと緩いところがあったりして、チューニングの都度なんとかならないだろうかという思いを持っておりました。

■交換前の状態
ともあれ、糸巻を外してみました。
軸間は35mm、ローラー径は10.0mmと標準的です。
MADE IN SPAINの刻印があります。オリジナルのものでしょうか。

歯車を観察すると、中央部分がずいぶんエグれています。いくらなんでもここまですり減るとは思えないのですが、どうなんでしょう。

ローラーが収まる穴の周辺には欠けた部分があります。穴径はだいたい10.5mmくらい(場所によってばらつきも)あります。なので、ローラーとの隙間がガバガバです。

糸倉の内側には木ネジの先端が飛び出した跡があります。で、木ネジは先端を切ってある。一度取り付けて、ネジが長すぎたことに気づいて短くしたんでしょうね。ということはオリジナルではない?

■代替品の選定
そんな状態なので、私も心置きなくこの糸巻を交換しようと決めたわけです。基本方針は「機能重視、見た目は二の次」です。

さて、交換しようと決めたものの、10弦ギター用の糸巻は手に入るものでしょうか。GOTOHのサイトでは見当たりません。ネットで見つけたのはフステロの中古品。外したものと同じデザインですが、7万円もする! そんなお金はアリマセン;>_<;

あとは単弦式のものを10個使うという手がありますね。そういえば、GOTOHにKG02-Cという型番の単弦糸巻がありました。ローラーにベアリングが組み込まれた高級品で、デザインもかっこいいです。価格を調べたら、SOUND HOUSEで¥32,800(税込)!!! これってまさか1個の価格じゃないですよね。6個一組の価格だとしても2セット必要なので、やっぱり無理。

さらにあれこれ調べたら、『単式糸巻き 後藤(1G12-EW-GG)』というものを見つけました。GOTOHのカタログには無い型番ですが、製造中止品でしょうか。ともあれ6個セットで5000円弱で扱われていました。これならなんとかなるということで、2セット発注しました。ネットで発注〜翌日到着、ってアウラさん仕事が速すぎ。

金ピカであまり上品なデザインとは言えませんが、見た目は重視しない方針です。ただ、動きがちょっとシブくて、なんの油っ気もなかったので、歯車やつまみ軸をバラして、各部品をグリス漬けにしておきました。

■穴埋め
古い糸巻のネジ穴は埋めなくてはなりません。なんでも、爪楊枝にボンドをつけてを穴に突っ込むのが標準工法らしいのですが、爪楊枝はなんだか柔らかすぎる気がしたので、もっと硬い木を探すことにしました。

で、近所のホームセンターで見つけたのがオークの端材。ヘッドと同じ木(たぶんマホガニー)があればよかったのですが、それは見当たらなかったので、硬くて色合いの似たものを選びました。

端材からさらに少量を切り出して、ネジ穴の形に加工しました。買った端材は固形石鹸くらいの大きさで、30円でしたが、使う量を金額比例させたら1円未満ですね。

■塗装
ボンドをつけたオーク材をネジ穴に叩き込んで、飛び出た部分をざっくり切り落としたあとは、表面が平らになるようにヤスリをかけますが、そうすると、埋め木だけじゃなくて、周辺まですこし削られてしまうのは避けられないことです。なので、埋め木とその周辺を塗装をする必要があります。見た目は気にしないとしても、塗装には素材を保護する機能もありますからね。

ラミレスはポリウレタン塗装だという情報がありますが、そういう塗料はもっていません。しかし、このわずかな面積のために新たに調達するのも面白くない。そこで思いついたのがこれ。

フローリング床用のワックスです。当家ではわりとマメに(といっても年に1、2回)家中の床をワックスがけするので、これを常備しています。適度に艶が出ることも分かっています。滑りにくい(床用なので)のですが、別に触るところではないので問題ありません。これを綿棒に含ませて塗布しました。

■スリーブ
購入した糸巻の寸法に問題はありません。ローラー径も10.0mmで標準サイズなのですが、問題は穴径のほうが大きすぎること。

そこで考えたのは、穴の内壁にピタッと収まるスリーブをはめ込んで穴径を小さくすることです。といっても、内径10.0mm、外径10.5mmのパイプなんてそうそうあるものではありませんから、工夫が必要です(ここで3Dプリンタが欲しい、とちょっとだけ思いました・・・)。

身の回りに利用できそうなものがないかとあれこれ見回して、最終的に選んだのがクリアファイルです

さっそく試してみました。貰い物のクリアファイルを小さな短冊状に切って、丸めてローラー穴に嵌め込みます。現物に合わせて長さを微調整して、なんとか収めることができました。このクリアファイルの厚さは0.2mmだったので、円環状に丸めると直径が0.4mmだけ小さくなり、内径が10.1mmになる計算です。

ローラーを差し込んでみたところ、ほぼ隙間なく入ってくれてガタつきはなく、しかも回転も支障ない絶妙な塩梅となりました。

ちなみに、クリアファイルは片面に光沢があり、他の面はマット仕上げになっていました。で、今回はマット面を内側(ローラーと接する側)にしました。これは、光沢面だと力が加わったときにローラーと密着してしまう懸念があるのに対して、マット面だと微細な点で接触するだけであり、また凹部分にグリスが蓄えられることで、長期間にわたって潤滑性が保たれることを期待してのことです。

■取り付け
あとは糸巻の本体を取り付けて完成です。念の為と思い付属の木ネジをチェックしたところ、どうも長い気がする。測定したところ、糸倉の内側に0.1mmくらい先端が飛び出しそうです。必要なのは2×8の小さな頭の「鍋ネジ」なのですが、これがお店でも見当たりません。結局手に入ったのは2×8の「皿ネジ」で、これを使うには糸巻のプレートにザグリを入れる必要があります。

歯車やローラーがついたままでは加工できないので、また部品をバラして、プレートにザグリ加工を施して、再組立。これでようやくギター本体に取り付けることができます。

取り付けた後で気づいたのですが、糸巻のプレートは鉄製らしい(磁石がつくので)。とすると、ザグった部分がやがて錆びるかもしれないので、保護膜が必要です。オートバックスに行けば金色のタッチアップペンがあるでしょうか。でもまあ、金色にする必要もないし、被膜が形成されればいいだけなので、黒の油性ペンを塗っておきました。

■完成
そんなこんなで、ようやく糸巻の交換が完了しました。

金に黒ってかっこいいですね。ネジの頭も油性ペンで黒く塗ったら、全体が引き締まって見栄えもグッとよくなりました(個人の感想です)。

■使用感
弦を張って1週間ほど経過しました。毎日触っています。すこぶる快調です。巻き上げるときも、緩めるときも、滑るようにヌルヌルと動きます。バックラッシもほとんど感じません。スリーブがずれた様子もありません。

交換前の100倍のスムーズさ、期待レベルの10倍の出来です(いずれも当社比)。さすがGOTOHの糸巻、ということももちろんありますが、スリーブの効果も大きいものと自画自賛しています。もうベアリング式のローラーは要りません。


スリーブ(クリアファイル)の素材は、確証はありませんが、たぶんポリプロピレン(PP)です。今回はこれにグリスを塗布して使いましたが、できればグリスなどは使わずに済ませたい。そのためPPよりも圧倒的に低摩擦のテフロン(PTFE)があればよかったのだけど、と思っています。機会があれば、テフロンシートか、噴霧してテフロン被膜を作るスプレーなどを使ってみたいと考えています。んで、それを3Dプリンタで作れたら最高ですね。

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