ウルフトーンの抑え込みに成功した『田村満1973』は、その後ほとんど毎日のように弾いています。といっても、もちろん、それがステージでも使えるようなコンサート楽器になったというわけではありません。あいかわらず高音は鼻が詰まったような音がするし、低音弦を強く弾けばどこかでビリつき音が発生します。
たまに松井ギターを弾くと全域にわたってものすごくよく鳴るし、何と言っても音がキラキラして綺麗です。星野ギターはさらにそれにいぶし銀の落ち着きを加えたような・・・って、何を言ってるのか自分でもよく分かりませんが、ともかく、そういった一級品とは明らかな差があります。
ではありますが、気になるウルフトーンがなくなったことで、ストレスなく弾いていられるのはありがたいことです。この際なので、この楽器を徹底的に使い倒してやろうと考えています。そうでなければ、またケースの中で長く使われない期間を送るだけなので。
ということで、かねてより興味のあった立奏をこの楽器で試してみることにしました。期待するところは、立って弾くことで体の各部の不自然な緊張や圧迫などが緩和されて右手指の動きにいい影響が現れることです。
■ストラップ
クラシックギターで立奏するために、楽器を傷つけない特殊な道具もあるようですが、私は他のギター類(エレキギター、アコギ、バロックギター、等々)と同様にオーソドックスにストラップを使いたいと考えています。たぶん広く使われているのには理由がある。
で、まずは予備的に吸盤でストラップを取り付けてみました。
これで立奏を試したところとてもいい感じだったのですが、吸盤というのは突然外れないとも限らないのでちょっと怖い。そこで思い切ってストラップピンを立てることにしました。松井ギターや星野ギターならば当然躊躇するところですが、使い倒すことに決めた『田村満1973』なので、決断しました。
ちなみに、星模様のストラップは子供から譲り受けたエレキギターのものです。かわいい。
■構え・弾き方
ストラップを取り付けて楽器を構えてみると、当然ながら座って弾く場合と違いがあります。
まず楽器が動きます。座奏の場合、楽器は両足と胸の3箇所で支えるので、手を離しても安定しており、右腕を楽器に乗せてもほとんど動きません。それに対して立奏では楽器はストラップで2点吊りされた状態なので不安定です。その状態で右腕を楽器に乗せると、腕を乗せた部分が下方かつ体に近い方に動き、楽器のヘッドは前に出て、表面板はやや右上方を向くことになります。両足を45度くらいに開いて立つと、右足のつま先方向に表面板が向きます。なお、腕を乗せてしまえばその状態で安定するので、演奏中に困るようなことはありません。
利点かもしれないのは、ネックを立てたり寝せたり、つまり楽器の傾きを簡単に変えられることです。これは右手指と弦の当たる角度に影響するし、imaの各指が異なる弦を弾くアルペジオ中心の曲か、同じ弦を多く弾くスケールが多用された曲かといった違いに対して調整ができるということです。まあ、曲の途中でやるのは難しいんですが。
■姿勢
姿勢については、いい影響が多いように思います。背骨や腰骨を伸ばしたままでいられるので気持ちがいい。足の踏み替えは自由なので、どちらか一方の足で体重をささえ続けるということもなく、1時間くらい立ちっぱなしでも疲れは感じません。尾底骨や尻も痛くならない。
想定外だったのは、左肩が痛くなることです。楽器の重さがほぼ一点にそのままかかってくるんですね。幅広で適度な柔らかさをもったストラップを試さなくてはなりません。
■右手の変化
さて問題の右手、フォーカルジストニアの指の動きにどんな影響があるかということですが、残念ながら特段の変化は感じていません。まあ、まだ短期の試行なので、これからどうなっていくか注目していくことにします。
別の可能性としては、楽器を動かせる範囲が大きいので、たとえば腹を出したり(のけぞったり)引っ込めたり(前かがみになったり)することで、右手指の動きづらい分をアシストすることができるかもしれません。これも、これからの試行錯誤の課題にしておきます。
■音楽の変化
両足を含めた体全体が動きやすくなることで、音楽そのものは変化するでしょうか。リズムが安定するとか、強弱がはっきりするとか、表現の振り幅が大きくなるとか、そういうことはありそうな気がします。
なにはともあれ、立って弾くのは楽しいです。弾きながら部屋の中を歩き回りたくなります。気をつけるべきは、弾いている本人だけがいい気持ちになって、客観的な視点を見失うことですね。
そんなわけで、動画を撮ってみました。
ひとつは、いつものリハビリメニューにしているカルカッシの練習曲。空振りの頻度は相変わらずの感じです。
もうひとつは、ヴィラ・ロボスの前奏曲1番。いつもよりちょっとだけ自由度高めかもしれません。
楽器は基本的に出しっぱなしにしています。