R18なハナシ

別掲のとおり、前立腺の摘出に伴う合併症のひとつに「尿漏れ」がありますが、これはたいていの場合回復します。これに対してもうひとつ、永久に回復しない合併症があります。いわゆる「男性機能」の喪失です。ある人にとってこれは尿漏れよりも深刻な問題であり、別な人にとってはどうでもいい問題です。私は完全に後者です。

それにしても「前立腺」とはよく言ったものです。これがなくなって前が立たなくなりました。

厳密には「勃起神経」というものを残しておけば、立たなくなることはないらしいのです。で、手術の際のオプションで、この「勃起神経」を残すという選択肢がありました。ただ、
・このオプションを選択すると手術の困難度が増す
・患部の取り残しの可能性が高まる
・残す選択をしても、必ず勃起能力が保存される保証はない
ということだったので、迷わずすべて取り去ることを選択しました。なあに、これからは「おねえキャラ」で生きていけばいいのです。

なお、手術では、前立腺だけではなくて、それに隣接している「精嚢(のう)」もいっしょに摘出されました。なので、たとえ人工授精であっても、今後あらたに私の子供を作るということはできなくなりました。iPS細胞でどうかは分かりません。

さて、私の予想では手術前に「剃毛」なる儀式が行われるはずでした。そしてそれは看護婦さんによって執り行われることが期待されます。そうなると、そのときに自然の摂理として勃起という現象が発生したとしても、だれも私を非難することはできません。おお、なんということでしょう。人生最後の勃起は看護婦さんによって引き起こされます。夢のようです。これを思い出にして残りの人生を生きていけるというものです。もっとも最近は男の看護師さんもいますから、その場合は悪夢というしかありませんが。

しかし。

私の妄想を裏切るかのように、何の儀式もないままに、私は手術室に送り込まれたのでした。術後に確認したところ、切開部付近の陰毛は、バリカンか何かでザクッと刈られたような無残な様相を呈しています。ああ、なんということでしょう。あの厳粛かつ神聖であるはずの儀式は、私が麻酔で眠らされているうちに、ぞんざいに行われてしまったようです。

そして。

立ちませんねえ。何を見ても、何を聞いても、たたいても、引っ張っても、こすっても、何をしても立ちません。昼も夜も、朝も立ちません。医者の言ったとおりですねえ。体の仕組みって、どこをどうするとどうなるって、ずいぶんいろんなことが分かっているんだなあ、なんて関心するほどです。

そうすると、私の人生最後の勃起と射精はいつだったのでしょう。どうも、生検の名残で血液の混じった褐色の精液の放出を風呂場で確認したのが最後だったということになったようです。

白衣の天使によって引き起こされるはずの人生最後の夢は、こうして泡沫のごとく消え去っていたのでした。ああ、私はこれから何を心の支えにして生きていけばいいのでしょうか。

それにしても「再起不能」とはよく言ったものです。

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