尾籠なハナシ

前立腺摘出後、社会復帰を妨げる最大の要因は尿漏れであります。
これは、前立腺とともに「尿道括約筋」という筋肉が取り去られ、あるいは傷つくことによって発生します。
正直いって、もっとコントロールできると考えていましたが、甘かった。
それでも、少しずつ状況は改善していきました。

【カテーテル抜き取り直後の状況】
尿のチューブが抜かれたのは4月23日の夕方でしたが、その時点ではまったく排尿を制御できませんでした。
力の入れようは手術前と変化なく、要するに、排尿をがまんする感覚で下腹部に力を込めるわけです。このとき、力が入らないとか、痛みがあるとか、そういうことは一切ありません。普通に、あるいは以前よりもがんばって力を込める。だけど、尿は漏れ出ていく;>_<;

【退院翌日の状況】
・寝ている間はそれなりに膀胱に尿が溜まる。
 トイレに行くと、150〜200ccほどを排出することができる。
 ただし、トイレに行くまでの歩行でそれなりに漏れる。
 尿取りパッドにも同程度の尿が吸い込まれているようだ。
・立ってじっとしていると、膀胱に尿を溜めることができる。
・膀胱にある程度尿が溜まった状態で歩くと、そのたびに漏れる。
・座っていると、ほとんど垂れ流し状態である。
 がまんしたつもりでトイレに行っても、ほとんど出ない(垂れ流し済み)。

【退院から3日後の状況】
長時間椅子に座った後にトイレに行くと、わずかながら膀胱内に溜まっていた(つまり、排出が抑制されていた)尿を出すことができた。
立ち上がる瞬間の尿漏れは制御できてきた。ただし、起立した直度に漏れ出ることが多い。油断のためか。
尿取りパッドは、300cc対応のものを毎日15枚程度消費している。
安全のため、尿取りパッドの上からパンツ式の紙おむつをつけているが、これに漏れ出ることはない。

【退院後1週間を過ぎたころから顕著に改善】
意外なことに、夜、寝ている間の尿漏れがほとんどなくなった。尿意で目を覚ましてトイレに行くと、自力による大量の排尿ができる。寝ているときは、基本的に膀胱が尿道よりも重力の下方にあるので溜めやすいのかも、などと愚考。
昼間も貯尿ができるケースが出てきた。
退院から2週間後には、約2時間のギター演奏、尿道括約筋の運動、その他の作業を行なって、尿漏れはほとんどなかった。

【退院から1か月後の状況】
就寝中の尿漏れなし。
会社でのデスクワーク中の尿漏れなし。すなわち、出社時に新しい尿パッドを装着すると、退社時まで交換必要なし。
ただし、出退勤の移動(歩行)中に漏れ出るようだ。その時に感覚はないのだが、会社に(あるいは自宅に)着くとかなり漏れ出ている。なお、通勤時間は約2時間(片道)。

【退院から2か月後の状況】
通勤など、長距離移動の前にトイレに行っておくと、移動中の尿漏れがほとんどなくなった。
力仕事などをすると、気付かないうちに漏れ出ていることがある。
くしゃみなどで、漏れ出る感覚がある。

【退院から3か月後の状況】
気付かないうちに漏れ出ているということはなくなった。
膀胱に尿が溜まっているときに、くしゃみをしたりするとタラリとした感覚があることがある。
薄型尿パッド1枚を24時間装着して、数ヶ所にシミができる程度。

【骨盤底筋運動】
摘出手術が決まったときから事前の運動が効果的と言われて、運動要領の説明書をもらっていました。
・肛門をキュッと絞めるのを5回続けて、1回休む
・肛門をキュッと絞めるのを5秒続けて、5秒休む
・要するに、出かけた尿を止める要領で力をいれる
・上記のような運動を毎日3〜40分行なう
最初はあまりまじめにやらなかったのですが、手術直前には、1日1000回キュッととしたり、5秒のキュッを300セットやったりしました。

ただ、上述のとおり、効果てきめんというわけではありませんでした。
ところで、自分なりにあれこれ調べてみて、勘違いをしていたかもしれないことに気付きました。
排尿の制御は「尿道括約筋」にだけ負わせるのではなく、「骨盤底筋群」と呼ばれるそのあたりにある筋肉の全体の力で押さえ込むのがいいらしいということです。
それで、これはいいかも、と思った運動があるので紹介しておきます。
・仰向けに寝る
・ひざを立てる
・さらに腰を浮かせる
・その状態で、「出そうな尿をがまんする」要領で力を込めると同時に「肛門をキュッと絞める」
・疲れたら力を抜いて休む
・これを飽きるまでやる
私は退屈しないように、テレビを見ながら、毎日20分くらいやっています。
これを続けた1週間くらいで急速に漏れが少なくなりました。

【尿取りパッド】
尿取りパッドというのは、サイズ別に3種類に大別されるようです。一番大きなものは300cc対応というものです。排尿1回あたり150ccとして「2回分」をうたっています。寝たきりの人用もこのサイズです。形状は単純な長方形で、それを丸めたり畳んだりして使うのですが、その方法や、止めるためのテープの位置が各メーカーごとの工夫のしどころのようです。

次が150ccサイズ。普通に歩ける人の使用を想定しているようです。これは形状自体に工夫がなされています。基本的には下着の内側に貼り付けて使用します。

これらのものは女性用と男性用に分かれています。で、大型のパッドから解放されて、立ったままで排尿できるようになったときは、これがまたうれしかった。

一番小さいサイズは、50cc用とか、それより小さいものです。ほぼ平らなシート状で、「しずく」を吸い取るくらいの使用が想定されています。このあたりのものは女性の生理用品と見分けがつかなくて、それゆえ、持ち運びには細心の注意を要します。だれかに見られたら変態扱いされますもんねえ。

私もこの順序で徐々に小さなサイズのものに移行していきました。最初は念のため[300ccタイプ+パンツタイプ]の二重構造で対応していましたが、パンツタイプのところまであふれ出ることはありませんでした。

【克服宣言】
そんなこんなで、自分なりの「尿漏れ克服宣言」を出したのが手術から4か月めくらいのことです。この段階では、朝から夜まで装着していたシート状のパッドに3,4か所の「シミ」が記録される状況でした。総量にして1ccもなかったと思います。

ところが、このシミがなかなかなくなりません。自分でも気づかないうちに、ジワッと染み出してくるようなのです。調査と観察を行った結果、このシミはトイレにいったすぐ後にできるらしいことが分かりました。たしかに、尿漏れがおさまってくるにつれて、かつてに比べて排尿後の「キレ」が悪くなったと感じていました。

キレが悪いというのは、膀胱から先の尿道のどこかに尿が滞留しているということです。で、排尿後に、体のある一部分を押してみたところ、ピュッと尿が飛び出してくるではありませんか。そうか、ここに溜まっていたのか、というわけで、以後排尿のたびにこのツボを押さえることで残尿感も激減しました。かつてはこの部分にも筋肉があったということなのでしょか。あるいは、手術によって前立腺を取り去り、膀胱を引き下げ、尿道を引き上げて両者を直接つないだので、筋肉を含めた全体の位置関係が変わったせいなのかも知れません。

ということで、術後半年を経過した頃からは、最後の仕上げとして、筋力によって尿道に滞留している分を押し出す訓練を続けております。

こうして尿漏れはなくなりました。そして、肥大していた前立腺を抱えていたときとは比べ物にならないほどの排尿の勢いを取り戻しています。

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